2025/9/5

COVID-19パンデミック中の介護保険サービス利用状況の変化

Change of use in community services among disabled older adults during COVID-19 in Japan
COVID-19パンデミック中の介護保険サービス利用状況の変化

Tomoko Ito, Sachiko Hirata-Mogi, Taeko Watanabe, Takehiro Sugiyama, Xueying Jin, Shu Kobayashi, Nanako Tamiya
伊藤 智子, 平田 佐智子, 渡邊 多永子, 杉山 雄大, 金 雪瑩,小林 秀, 田宮 菜奈子

 

2021年1月発行の「International Journal of Environmental Research and Public Health」に、筑波大学と株式会社エス・エム・エス Analytics & Innovation推進部の共同研究の成果が掲載された。本研究では、介護/障害福祉事業者向け経営支援「カイポケ」のデータを用いて、COVID-19パンデミックによる介護保険サービス利用状況の変化を検討した。

背 景

COVID-19パンデミック中は、高齢者向けの地域サービスを含む社会的交流が制限され、介護サービスの利用状況にも影響があった可能性が懸念された。日本の介護保険制度は、65歳以上の高齢者に必要なサービスを提供しているが、パンデミックにより対面サービスに制限が生じたことは、その利用状況に大きな変化をもたらしたと考えられる。本研究の目的は、パンデミック前後の介護保険サービスの利用状況の変化を明らかにすることである。

方 法

本研究は、株式会社エス・エム・エスが提供する介護/障害福祉事業者向け経営支援「カイポケ」の匿名化データを使用した。対象者は、2019年7月~2020年6月の間に介護保険サービスを利用した65歳以上の在宅高齢者で、要介護1から5の認定を受けている者とした。主要評価項目は月別のサービス利用者数であり、性別、年齢、要介護度のほか、サービス利用時における居住都道府県のデータも利用した。サービスは、訪問介護、訪問看護、訪問入浴、通所介護、通所リハビリテーションに分類し、分割時系列分析を用いてパンデミック前(2019年7月~12月)とパンデミック後(2020年1月~6月)の変化を検討した。

結 果

サービス利用者数は、ほぼすべての月で前月より増加したものの、2020年5月は553人減少した。利用者の平均年齢は83.9歳であり、男女比はパンデミック前後で大きな変化はなかった。85歳以上の割合はパンデミック前の49.2%からパンデミック後は52.5%に増加したが、要介護度の構成に大きな変化はなかった。2020年4月に緊急事態宣言が発令された7都府県(東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡)の利用者は、パンデミック前には増加傾向にあったが、パンデミック後の2020年3月から5月はわずかに減少した。
分割時系列分析でCOVID-19前後の利用者数の傾向を分析したところ、全体としては、パンデミック前は増加傾向(β=0.0120, p<0.001)、パンデミック後は減少傾向(β =−0.0038,p<0.001)を示した。パンデミック後の減少傾向がより顕著だったのは、通所介護(β=−0.0129, p<0.001)および通所リハビリテーション(β=−0.0128, p<0.001)であった。一方、訪問入浴および訪問看護の利用者と、要介護4または5の利用者は、パンデミック拡大にもかかわらず増加傾向を示した。特に訪問入浴の利用者はパンデミック前よりも大幅に増加した(β=0.0188, p<0.001)。
パンデミック後の利用者数の推定変化では、通所介護は-2,468人、通所リハビリテーションは-533.1人と減少し、訪問入浴は94.8人から208.4人に増加した。

考 察

本研究は、日本におけるCOVID-19パンデミック中の介護保険サービス利用状況の変化を検討した初めての大規模データ解析の結果報告である。分析結果から、パンデミックの前後で通所介護と通所リハビリテーションの利用者数が減少傾向となり、高齢者間の交流とリハビリテーションの機会が制限された可能性が示唆された。一方、訪問入浴や訪問看護の利用は維持され、特に訪問入浴の利用は大幅に増加した。これは、感染予防の観点から集団でのケアが避けられたとともに、通所サービスへのニーズが訪問サービスへ移行した可能性が考えられる。通所サービスの利用に制限が出ることは、高齢者の身体機能や社会的交流に悪影響となることが懸念されるため、持続可能な支援策が必要であることが示唆された。

掲載情報

International Journal of Environmental Research and Public Health 18(3) ,1148(2021)
Change of Use in Community Services among Disabled Older Adults during COVID-19 in Japan
COVID-19パンデミック中の介護保険サービス利用状況の変化

Tomoko Ito1,2, Sachiko Hirata-Mogi2,3, Taeko Watanabe2, Takehiro Sugiyama1,2,4, Xueying Jin1,2, Shu Kobayashi3, Nanako Tamiya1,2
伊藤 智子1,2, 平田 佐智子2,3, 渡邊 多永子2, 杉山 雄大1,2,4, 金 雪瑩1,2, 小林 秀3, 田宮 菜奈子1,2

1 筑波大学 医学医療系 ヘルスサービスリサーチ分野
2 筑波大学 ヘルスサービス開発研究センター
3 株式会社エス・エム・エス Analytics & Innovation推進部
4 国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター

研究員

編集事務局高齢社会ラボ

高齢社会ラボの編集担当者

編集事務局高齢社会ラボ

介護・障害福祉事業者向けシステム開発担当者や介護・障害福祉業界に長く携わるメンバーが在籍。 データの分析、アンケート調査、研究活動を通して、介護・障害福祉経営や運営に役立つ情報を発信しています。

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