
新型コロナウイルス感染症と介護事業所収入の変化
新型コロナウイルス感染症が拡大している期間、特に緊急事態宣言が発令されていた2020年4月~5月において、2割以上収入が低下した通所介護事業所の割合が、前年と比較して著しく増加していた。しかし、6月以降はこの傾向が収まり、収入が増加傾向に転じた事業所が増えていることがわかった。その他の介護事業所でも、2020年4月~5月において収入が低下した事業所数がわずかに増加していたが、6月以降は昨年並みに戻った。
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Changes in long-term care insurance revenue among service providers during the COVID-19 pandemic
―新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大期間における介護保険サービス事業者の収入の変化―
日本では急速な高齢化に対応するため2000年に介護保険制度が設立されたが、民間の事業者は公的サービスの提供により主な収益を得ているため、公的利用が減少すれば経営が厳しくなる傾向がある。COVID-19パンデミックの間、一部の事業者は感染症対策として事業の休止や閉鎖を余儀なくされた。パンデミックの影響による収入減少や倒産リスクを示した先行文献はあるが、全国規模での調査研究はほとんどない。
本研究は、株式会社エス・エム・エスが提供する介護保険サービス事業者向けの経営支援プラットフォーム「カイポケ」の匿名化データを使用した。各介護保険事業所が保険請求を行う際のデータを抽出し、事業者収入について記述的分析で示した後、分割時系列分析を用いてCOVID-19パンデミックが与えた影響を検討した。
対象は、2018年11月時点で介護サービス(居宅介護支援、訪問介護、訪問看護、通所介護)を提供していた事業者とした。アウトカムは、2018年12月から2020年11月までの24カ月間に、これら4種類の各サービスの事業者が請求した金額(米ドル)とし、2018年11月の米ドル対円相場の平均為替レート113円で設定した。
分析においては、パンデミックによる介護報酬の変化局面の抽出を試み、期間をCOVID-19感染拡大前(2018年12月-2019年12月)とCOVID-19感染拡大後(2020年1月-2020年11月)に分けた。また、緊急事態宣言が早期に発令された東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県をリスクエリア、それ以外の地域をコントロールエリアとして、地域差を検討した。
サービスタイプ別の事業者数は、居宅介護支援5,767、訪問介護3,506、訪問看護971、通所介護4,650であり、リスクエリアとコントロールエリアの事業者数は、それぞれ概ね同数であった。
追跡した24カ月間における事業者収入の平均と中央値を1か月ごとに示し、COVID-19感染拡大の前と後を比較したところ、リスクエリアのデイケアを除いて、すべてのサービスとエリアで収入の増加傾向が認められた。リスクエリアのデイケア事業者の場合、平均で約100米ドル減少し、中央値で約200米ドル減少した。
分割時系列分析の結果では、居宅介護支援について、COVID-19パンデミック後の水準と傾きがともに低下した。訪問介護と訪問看護では、訪問介護の平均についてのみ、水準の有意な低下が認められた。通所介護においては、水準が大きく低下したが、傾きに有意な変化はなかった。
本研究の結果では、通所介護事業者において、収入の水準が顕著に低下した。通所介護は集団活動を行うため、事業者と利用者は活動中の感染防止に注意を払う必要がある。利用者数の減少が、事業者収入にも影響を与えた可能性がある。
パンデミックの脅威はライフスタイルの変化を強いることになったが、特にCOVID-19の重症化リスクの高い高齢者において介護サービスの利用の変化が顕著となり、事業者の経営に大きな影響を与えた。本研究で特定されたのは、部分的な収入減少のみだが、一連のプロセスが事業者の廃業につながることも懸念される。
介護保険サービス事業者の収入の変化が事業の維持にどのような影響を与えるかを判断するには、さらなる研究が必要となるが、本研究における全国的な結果は、将来の予測や対策に役立つエビデンスとなる可能性がある。