
新型コロナウイルス感染症と介護事業所収入の変化
新型コロナウイルス感染症が拡大している期間、特に緊急事態宣言が発令されていた2020年4月~5月において、2割以上収入が低下した通所介護事業所の割合が、前年と比較して著しく増加していた。しかし、6月以降はこの傾向が収まり、収入が増加傾向に転じた事業所が増えていることがわかった。その他の介護事業所でも、2020年4月~5月において収入が低下した事業所数がわずかに増加していたが、6月以降は昨年並みに戻った。
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2023年3月発行の「Geriatrics & Gerontology International」に、筑波大学と株式会社エス・エム・エス Analytics & Innovation推進部の共同研究の成果が掲載された。本研究では、介護/障害福祉事業者向け経営支援「カイポケ」のデータを用いて、インスリン療法が必要な高齢者の介護保険サービス利用実態を調べた。
インスリン療法は自己管理を基本とするが、加齢や身体的・認知的機能の低下により、自己管理が難しくなることがある。日本では、インスリン療法が必要な高齢者が自己管理できなくなると、家族がその役割を担うことが多い。また、介護保険サービスも並行して利用することができる。介護保険サービスには、医療専門職による訪問看護と、非医療専門職による訪問介護が含まれるが、これまで糖尿病のある介護保険利用者のサービス利用実態については十分に明らかにされていない。本研究の目的は、インスリン療法を要する糖尿病に罹患した高齢者、どのような介護保険サービスを利用しているかという実態を明らかにすることである。
本研究は、株式会社エス・エム・エスが提供する介護/障害福祉事業者向け経営支援「カイポケ」の匿名化データを使用した。ケアマネジャーが作成したケアプランから、2011年4月から2019年4月の期間における、65歳以上で糖尿病に罹患またはインスリン使用中の介護保険サービス利用者を対象とした。このデータを、家族との同居の有無でカテゴライズし、利用者の属性や人数を集計した。
糖尿病に罹患またはインスリン使用中の介護保険サービス利用者6,627人のうち、インスリン使用者は641人(9.7%)であった。インスリン使用者のうち、373人が家族と同居、268人が一人暮らしであり、要介護3以上に限ると、家族と同居している人は167人(44.7%)、一人暮らしは120人(44.8%)であった。また、認知症高齢者で日常生活自立度IIa以上の人のうち、家族と同居しているのは233人(62.5%)、一人暮らしは184人(68.6%)であった。一人暮らしで訪問介護を利用している人のうち、119人(58.0%)は訪問看護を利用していなかった。一人暮らしのインスリン使用者の介護保険サービス利用状況については、103人(38.4%)が訪問看護、205人(76.5%)が訪問介護、128人(47.8%)が通所介護、13人(4.9%)が短期入所を利用していた。訪問看護を利用していないインスリン使用者において、一人暮らしの高齢者165人のうち79人(47.9%)は、認知症高齢者の日常生活自立度がIIbかそれより悪い状態であった。
本研究の結果から、介護保険サービスを利用している者のうち、インスリンを使用している高齢者では、一人暮らしの約半数が要介護3以上であり、60%以上に認知機能の低下があることが明らかとなった。また、訪問看護を利用している人よりも、訪問介護や通所介護を利用している人の方が多かった。現在の日本では、患者に代わってインスリン注射を行えるのは、家族と医療専門職に限定されている。介護職が介護保険サービス利用者のインスリン自己注射を見守ることは制度上認められているが、先行研究では、インスリン管理が難しい利用者がいた場合に介護職が対応に戸惑うことがあると指摘されている。今後、インスリンを使用する高齢者を地域で支援するシステムの構築が求められる。
Geriatrics & Gerontology International 23(3), 253-255(2023)
Current conditions of use of long-term care insurance services for home-based long-term care recipients who need insulin therapy
インスリン療法が必要な在宅要介護者の介護保険サービス利用実態
Shinobu Watanabe1,2, Tomoko Ito1, Takehiro Sugiyama1,3,4,5, Makiko Tomita1,6, Shu Kobayashi6, Nanako Tamiya1,3
渡辺 忍1,2, 伊藤 智子1, 杉山 雄大1,3,4,5, 富田 眞紀子1,6, 小林 秀6, 田宮 菜奈子1,3
1 筑波大学 ヘルスサービス開発研究センター
2 茨城県立医療大学 保健医療学部 看護学科
3 筑波大学 医学医療系 ヘルスサービスリサーチ分野
4 国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 糖尿病情報センター
5 国立健康危機管理研究機構 国際医療協力局 グローバルヘルス政策研究センター
6 株式会社エス・エム・エス Analytics & Innovation推進部