結果の概要

総合事業の取組状況に関しては、NTTデータによって、市町村を対象とした質問紙調査と、市町村・住民団体を対象としたヒアリング調査、事業評価指標の検討が既に行われている(調査概要の参考資料を参照)。この調査結果を受けて、本調査はWEBアンケートによって、介護従事者・介護経営者の総合事業サービスA・Bの取組み状況および総合事業サービスBに対する認識を明らかにすることを目的としている。
サービスB(住民の互助による介護予防)の効果については肯定的な見解が票を占めた。また、多くの介護経営者・介護従事者が、この施策を、専門家による介護予防を代替するものではなく、補完的な役割を果たすものと捉えていた。

 

調査概要

  • 調査名:総合事業の取組状況に関する調査(2021年4-5月実施)
  • 調査対象:カイポケリサーチ
  • 対象サービス種別:居宅介護支援、訪問介護、通所介護
  • 調査期間:2021年4月20日~5月15日
  • 調査方法:インターネット調査
  • 有効回答数:219件
    経営者:105件 (47.5%)、ケアマネジャー:66件 (30.1%)(ただし重複を含む)
  • 参考資料:株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所 (2020) 「介護予防・日常生活支援総合事業及び生活支援体整備事業の実施状況に関する調査研究事業報告書」(令和元年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業)(以下、「NTTデータ(2020)」)

 

調査詳細

  1. 総合事業の実施に伴い、今まで「予防給付」と呼ばれていた訪問型・通所型の介護予防サービスが、総合事業に含まれることとなった。不明群を除く回答者の回答拠点のうち、旧来「予防給付」と呼ばれていた訪問型・通所型の介護予防サービスを行っているものは、約7割だった。不明群とは、「介護予防サービスは扱っているが、それが旧来の「予防給付」に該当するのか、サービスA(次の設問)に該当するのかわからない」「介護予防サービスを扱っているかどうかがわからない」「その他」と回答した回答者群を指す。
  2. 総合事業には、サービスAとして、従来の予防給付の人員等の基準を緩和した訪問型・通所型の介護予防サービスが新設された。不明群を除く回答者の回答拠点のうち、訪問型・通所型サービスAを行っているものは、半分弱だった。不明群とは、「介護予防サービスは扱っているが、それが旧来の「予防給付」に該当するのか、サービスAに該当するのかわからない」「介護予防サービスを扱っているかどうかがわからない」「その他」と回答した回答者群を指す。
  3. 総合事業には、地域の住民が主体となって行う介護予防のための支援活動が含まれている。回答者の約8割がこのことを知っていた。
  4. 住民の互助による介護予防に関する見解を聞いた。
    • 「専門家の関与が必要不可欠だ」と考えている回答者が他と比べて著しく多かった。具体的には、「そう思う」で47.5%、「そう思う」と「どちらかというとそう思う」を合わせると87.9%を占めた。
    • 対して、「専門家の負担が軽減される」と考えている回答者は著しく少なかった。具体的には、「そう思わない」で23.5%、「そう思わない」と「どちらかというとそう思わない」を合わせると59.0%を占めた。ただし、それでも「専門家の負担が軽減される」と考えている回答者が4割近くいることについては留意されたい。
    • その他、住民の互助による介護予防の効果については、全体的に肯定的な意見が多かった(「そう思う」と「どちらかというとそう思う」を合わせて約6~8割)。
  5. 住民の互助による介護予防がどのようにしたら広まるかを尋ねたところ、「そもそも広まらない」と回答した者は最も少なく(13.7%)、「市町村が本腰を入れて取り組む」と回答した者が最も多かった(68.0%)。
  6. その他、「この住民の互助による介護予防は、どのようにしたら広まりますか?」という問いに対して自由記述による回答を求めたところ、以下のような意見が集まった。(記載にあたり、趣旨が変わらない程度に一部表現を改めた)
    • 継続していくことも大切だ。徐々に広がり、浸透していくと思う。
    • 参加者(対象者)の意見や考えを丁寧に聞き取り、主体的に取り組めるようにする。
    • 「家族の認知症をご近所に知られたくない」「近所に迷惑をかけたくない」方もいる。ある一部分だけの関わりは近所関係が悪くなるという場合もある。
    • 行政・自治体が、報酬や対策費等の費用、携わる人の育成のシステム等、先に整えるべきだ。
    • 価値観が多様な中で、互助という精神がシステム化されることは、居間の日本ではレアケースだ。レアな成功例を出されても、そこには大抵、強力な牽引者がいるなど、どこの地域にも当てはめることは難しい。
    • 行政や社協など、リーダーシップをとる人材の育成。
    • 市町村の高齢福祉、障害等の取り組みが重要。
    • 私自身も専門職としてかかわっているが、実施すること自体が目的化しており、効果は限定的であると感じる。
    • 弱り切った地域の力は一概にあてにはできず、ビジネスとして確立が必要。
    • 田舎のため交通機関が発達していない。公民館活動も地域差があり、そもそも引きこもり状態の人を参加させるにはある程度の行政のかかわりが必要。
  7. 住民の互助による介護予防の事業に医療や介護の専門家がかかわることについて意見を尋ねたところ、「効果的だ」と考えている回答者の割合が高かった項目は、「自立した生活を送れる身体の維持・向上」(第1位、85.6%)、「自立した生活を送れる精神の維持・向上」(第1位、85.6%)、「自立した生活を送れる社会関係の維持・向上」(第3位、84.0%)だった。ただし、下グラフにおいて、「そう思う」は「そう思う」と「どちらかというとそう思う」を、「そう思わない」は「そう思わない」と「どちらかというとそう思わない」を合算したものである(8.も同様)。
  8. 同じ設問に対して「必要不可欠だ」と考えている回答者の割合が高かった項目は、「自立した生活を送れる身体の維持・向上」(第1位、81.3%)、「必要な人に支援を届けること」(第2位、79.8%)、「自立した生活を送れる精神の維持・向上」(第3位、77.9%)、「適切なサービスを提供する」(第3位、77.9%)だった。

研究員

安齋 耀太

研究員

安齋 耀太

東京大学大学院博士課程 単位取得後満期退学。日本学術振興会 特別研究員(DC1)、Martin-Luther-Universität Halle-Wittenberg 客員研究員、神奈川工科大学および神奈川社会福祉専門学校 非常勤講師を歴任。2021年、(株)エス・エム・エスに入社。介護事業者向け事業の経営企画に携わりながら、高齢社会に関する統計調査の設計・実行・分析・発信に従事。社会調査士。

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