介護の質の評価に関するインタビュー調査
「どのようにすればケアマネジメント・プロセスが適切に運用されている状態をつくることができるのか?」に関する調査研究の一環として、東洋大学・高野龍昭准教授の監修を受け、ケアマネジャーを対象としたアンケート調査およびインタビュー調査を行いました。
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以下は、本ウェブサイトに掲載された記事「介護の質の評価に関する調査(アセスメント編)」「介護の質の評価に関する追加調査1」に加筆修正を施し、2023年6月16日に開催された第33回日本老年学会総会・合同ポスターセッションにて報告した内容である。
本報告では、介護支援専門員によるアセスメントにおいて適切な情報収集を阻害する要因を明らかにする。そのために、居宅介護支援事業所の介護支援専門員を対象としてWeb調査を実施した。その結果、特に「口腔衛生・生活状況・24時間の生活リズム・インフォーマルサービスのニーズ・ACP」の情報が十分に収集されておらず、この5項目に共通する要因が「信頼関係が必要・時間がない・訊きにくい・複数回の確認が必要」であることを突き止めた。これより、「関係的・時間的な制約下での優先順位付けが個々の介護支援専門員に委ねられていること」が情報収集の阻害要因になっているという示唆を得た。
介護サービスの質を高めるためには、ケアマネジメントのプロセスが適切に運用されていることがひとつの重要なポイントとなるが、逆説的に、その適切な運用を阻んでいる要因の特定も必要となる。
このような観点から、本報告では、介護支援専門員によるアセスメントにおける情報収集に焦点を当て、介護支援専門員がどこに難しさを感じているかを明らかにし、アセスメントの適切な運用を阻んでいる要因を特定することを試みる。
「介護支援専門員がアセスメントにおける情報収集のどこに難しさを感じているか」を明らかにするため、介護支援専門員を対象とした2つのWeb調査をおこなった。
なお、倫理的配慮として、事前に「個人情報保護方針」「個人情報の取り扱いについて」を示して同意を受けたうえで、個人情報を含むデータについては特に厳重に管理している。
※1:【調査1】は、記載した内容以外に、アセスメントの分析過程における他の介護支援専門員・他職種との連携について、「ほぼ毎回連携している」「たまに連携している」「ほとんど連携していない」「全く連携していない」の4段階で評価する設問を含む。
※2:「カイポケリサーチ」は、株式会社エス・エム・エスの提供する介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」の会員を対象としたリサーチシステムである。全国45,200事業所(2023年4月1日時点)の介護事業者を対象として、サービス種類・所在地を指定した調査が可能である。
【調査1】の結果は以下のとおりである(図1)。
【調査2】では、【調査1】で抽出された5項目について、十分に情報を収集できていない理由を自由記述で回収し、アフターコーディングを施して集計した。結果は図2のとおりである。
5項目に共有した回答(図2の赤枠部分)は以下のとおりである。
すなわち、この4つがアセスメントにおける情報収集において大きな課題になっていることがわかった。
ただし、上記の回答は独立したものではなく、互いに関連しているものと捉えられる(図3)。例えば、「信頼関係が必要」なアセスメント項目であるために「訊きにく」かったり「複数回の確認が必要」だったりすると考えられるし、「時間がない」から「複数回の確認が必要」であることが考えられる。
各項目について、(1)の共通回答を除き、選択率が10%以上の回答(図2の橙枠部分)は以下のとおりである。
これらの結果から、アセスメントのジレンマが浮かび上がる。アセスメントでは「要介護の生活の全体像を把握する」※3ことが求められるが、他方で「要介護者及び家族が特に困っていること(略)及び緊急に対応すべきことが何かを明らかにすることがまず最低限必要である」※3ともされる。このジレンマが、各項目についてどの程度の情報を収集すべきなのか判断することを難しくしている。
一見、このジレンマは「追加アセスメント(あるいは再アセスメント)」によって解決されている。すなわち「すべて必要な項目を把握しきってから計画を作成するのではなく、計画を作成しながらモニタリングの機会を通して追加アセスメントを行い、計画を修正していくのが現実的なアセスメントのすすめ方」※3であるとされる。実際、【調査2】の回答からも、現場ではこの運用が為されていることがうかがえた。
しかし、例えば、どの項目を初回アセスメントで必ず訊くべきか、どの項目を信頼関係構築後に・時節を見て・必要なときのみ訊くべきか等、優先順位の付け方は必ずしも明確ではなく、個々の介護支援専門員の経験則やその場の判断に委ねられている。これがアセスメントにおける適切な情報収集を阻害する要因のひとつであると考えられる。
この優先順位付けを完全に形式化することは不可能か、そうでなくとも非常に困難である。しかし、適切な情報収集を推進するために、現場の介護支援専門員が迷わないような指針や目安を共有することが有用だと考えられる。
※3:社会福祉法人全国社会福祉協議会 (2017)『居宅サービス計画ガイドライン Ver.2』pp. 52-54.
研究員
東京大学大学院博士課程 単位取得後満期退学。日本学術振興会 特別研究員(DC1)、Martin-Luther-Universität Halle-Wittenberg 客員研究員、神奈川工科大学および神奈川社会福祉専門学校 非常勤講師を歴任。2021年、(株)エス・エム・エスに入社。介護事業者向け事業の経営企画に携わりながら、高齢社会に関する統計調査の設計・実行・分析・発信に従事。社会調査士。