調査の概要

高齢社会ラボは現在、「どのようにすればケアマネジメント・プロセスが適切に運用されている状態をつくることができるのか?」というテーマについて調査研究をおこなっています。この調査研究の一環として、東洋大学・高野龍昭准教授の監修を受け、ケアマネジャーを対象としたアンケート調査およびインタビュー調査を行いました。

アンケート調査については、別の記事をご確認ください(「介護の質の評価に関する調査(アセスメント編)」「介護の質の評価に関する調査(ケアプラン~モニタリング編)」)。

インタビュー調査では、「アセスメント・ケアプラン・サービス担当者会議・モニタリングという一連の業務プロセスにおいて、ケアマネジャーがどこにどのような困難を感じているのか」という観点から設問(→調査の結果 2.)を用意し、半構造化インタビューを実施しました。

 

調査の詳細

  • 調査名:介護の質の評価に関するインタビュー調査(2022年7月実施)
  • 調査対象:ケアマネジャー3名
  • 調査方法:オンラインのインタビュー調査(各30~60分程度)

 

調査の結果

1. インタビュー調査を通じて、以前実施したアンケート調査におけるいくつかの結果について、その背景が明らかになりました。

1-1. アンケート調査では、ケアプランの作成において、「生活全般の解決すべき課題に対して、長期目標・短期目標・サービス内容を適切に設定する」ことが比較的実現されていないことが明らかになっていました(図1)。インタビュー調査の結果は、特に「短期目標」の設定が難しく、それには「長期目標と異なり設定の基準がない」「短期目標には変化をつけることが求められるが、それが難しい場合もある」という要因があることを示唆しています。(資料1, 2)。

資料1: Bさん

短期目標の設定の仕方は、いつも少し悩みます。長期目標はニーズの裏返しなので目標を設定しやすいのですが、そこに至るまでの短期目標の設定が悩ましいです。短期目標は長期目標の何段階か手前と考えているのですが、長期目標に至るまでに何段階が必要なのかを設定するところでいつも迷います。

資料2: Cさん(【 】は調査者の発言。以下同じ)

目標が変わらない人の目標設定には本当に困っています。例えば、要介護度もADLもずっと変わらず、認知症があるので認知面の低下を防ぐためだけにデイサービスに通っている方がいます。家族はとにかく認知面の低下を抑えるためにデイサービスに通ってほしいだけなので、このような場合には半年経っても1年経ってもサービスの目標やニーズが変わりません。当然サービスの変更がないので、同じサービスのままで目標にどのように変化をつけていくかは非常に悩みます。
【目標は変わらないといけないのでしょうか?】
介護保険では、サービス提供によって達成すべき目標を半年後・1年後と設定し、その達成を通じて利用者が自宅でスムーズに過ごせるようにしていくことが求められています。ただサービスをあてがうだけではありません。目標を持ってサービスを使う必要があります。

 

1-2. アンケート調査において、サービス担当者会議において医師の出席頻度が他と比べて著しく低いことが明らかになっていました(図2)。インタビュー調査の結果は、医師が非常に忙しく日程が合わせにくいことはもちろん、医師は命を預かっているということを理由にケアマネジャーの側が医師に遠慮している現状があることを示唆していました(資料3)。

 

資料4: Cさん(……は中略。以下同じ)

特に、医師との調整が難しいです。医療と連携しなくてはいけないと言われていますが、医師がこちらで調整した時間帯に開催されるサービス担当者会議に出席してくれるわけではありません。……訪問診療の先生は朝から夕方までおそらく15分刻みくらいで移動して診療をされているので、そもそも私たちの会議に出席しなければならないわけではないんです。医師同席でサービス担当者会議を実施する場合、医師の訪問診療の時間に合わせて実施することが多いと思います。……医師はやはり命を預かっているので、基本はケアマネジャーが医師に合わせることが当たり前だと思います。
【ケアマネジャーが医師に合わせることについて、納得感はあるのでしょうか?】
はい。納得しています。

 

 

2. インタビューの各設問とそれに対する回答の概要は以下のとおりです。

2-1. 設問「アセスメントにおいて、十分な情報収集を行いそれを分析するという観点から、困難に感じていることを教えてください。」

Aさん

リスクの分析は難しいです。……例えば車椅子について、生活の一部のみで利用するのであればいいけれども、利用が常態化してかえって要介護度が重くなってしまうことがあります。……利用者の希望に従って用意することは誰でもできます。裏に隠れているリスクや影響などをしっかり分析しておかないと、過大な介護や、逆に過小な介護になってしまいます。この分析がいつも難しいです。……利用者も家族も「ケアマネジャーだったら言われたとおりのサービスを用意することは当然だ」と思っていることもあるので、専門職として重要なことを柔らかく申し伝える練習はいつもしています。

 

Bさん

分析力は自分自身の課題だなと感じております。(具体的には)原因を探る質問力です。例えば歩行困難という事象があったとして、「その原因が何か」「どうしたら改善できるか」先にある程度見通して仮説を立てたうえで、利用者の方に「日頃どういう生活を送っているのか」「どういう食事をとっているのか」といったことを訊けたら、もっと良くなるのではないかと反省しています。

 

Cさん

初回の場合は当然いろいろな情報を収集しやすいのですが、何年も更新が続くと生活に大きな変化はほとんどないので、サービスをどうしたいか、目標をどうしたいかなどを訊くことが難しいです。くわえて、生い立ちを訊かれることが嫌な人もいます。「サービスを提供するうえで、あなたのこと知りたいので、生い立ちを教えてもらいたい」とは話すのですが、なかなか訊きにくいなと思うことはあります。

 

2-2. 設問「ケアプランの作成において、適切なケアプランを作成するという観点から、困難に感じていることを教えてください。」

Bさん

短期目標の設定の仕方は、いつも少し悩みます。長期目標はニーズの裏返しなので目標を設定しやすいのですが、そこに至るまでの短期目標の設定が悩ましいです。短期目標は長期目標の何段階か手前と考えているのですが、長期目標に至るまでに何段階が必要なのかを設定するところでいつも迷います。

 

Cさん

目標が変わらない人の目標設定には本当に困っています。例えば、要介護度もADLもずっと変わらず、認知症があるので認知面の低下を防ぐためだけにデイサービスに通っている方がいます。家族はとにかく認知面の低下を抑えるためにデイサービスに通ってほしいだけなので、このような場合には半年経っても1年経ってもサービスの目標やニーズが変わりません。当然サービスの変更がないので、同じサービスのままで目標にどのように変化をつけていくかは非常に悩みます。
【目標は変わらないといけないのでしょうか?】
介護保険では、サービス提供によって達成すべき目標を半年後・1年後と設定し、その達成を通じて利用者が自宅でスムーズに過ごせるようにしていくことが求められています。ただサービスをあてがうだけではありません。目標を持ってサービスを使う必要があります。

 

2-3. 設問「サービス担当者会議の実施において、多角的にケアプランを検討するという観点から、困難に感じていることを教えてください。」

Aさん

「同じサービスの継続でよい」と回答する事業所が多いと感じています。これは無難な回答なのかもしれません。しかし、ケアマネジャーとしては、専門職から様々な角度で意見を挙げてもらわないと、より良い生活や自立支援に結びつかないだろうと思います。「利用者さんもそれを望んでいる」と事業所が言うのも分かるのですが、本当はサービス事業所として、自立支援に向けてもっとできる取り組みがあるのではないだろうかと思います。
【これはコロナ禍以前にはなかったのでしょうか?】
コロナ禍以前から、「そのまま継続で」という意見が多かったと感じます。

 

Bさん

2点あります。1点目は、日程調整です。特に今はコロナ禍なので、本当に対面で開催するかどうかから考えなければいけないという難しさがあります。また、全ての関係者を呼べない場合に、誰を優先するかはいつも悩んでしまうところです。
2点目は、会議の導入時、参加者の皆さんが意見を言うようになるまでどのような雰囲気になるかをいつも心配しております。

 

Cさん

課題は単純に日程調整です。日程調整がとにかく大変です。事業所によっても違うのですが、例えば生活相談員がいないデイサービスの場合、送迎の時間をずらせないので、狭い時間帯で会議の時間を調整しなくてはいけません。さらに看護師やリハビリ職の方が加わると、これ以上に調整が難しくなります。特に、医師との調整が難しいです。医療と連携しなくてはいけないと言われていますが、医師がこちらで調整した時間帯に開催されるサービス担当者会議に出席してくれるわけではありません。……訪問診療の先生は朝から夕方までおそらく15分刻みくらいで移動して診療をされているので、そもそも私たちの会議に出席しなければならないわけではないんです。医師同席でサービス担当者会議を実施する場合、医師の訪問診療の時間に合わせて実施することが多いと思います。……医師はやはり命を預かっているので、基本はケアマネジャーが医師に合わせることが当たり前だと思います。

 

2-4. 設問「モニタリングにおいて、利用者の変化を適切に捉え適切なサービス提供に繋げるという観点から、困難に感じていることを教えてください。」

Aさん

利用者に例えば「デイサービスどうだった?」「ヘルパーさんどうだった?」と画一的に訊くのではなく、話の中で拾っていくような技術が必要で、これが難しいです。……もちろん、利用者もケアマネジャーが業務で来ていることは分かっているのですが、一問一答のような会話はあまり好まれません。普通の会話の中からモニタリングをしていく技術は、非常に大事で難しいと思います。

 

Bさん (1)

アセスメントにも通じるのですが、掘り下げる質問力は磨いていかないといけないと感じています。モニタリングでは利用者の状況やサービスの満足度などを確認しなければならないのですが、それをストレートに訊いても不十分な答えしかもらえないと感じています。……もちろんストレートに訊いた方がいいときもあると思いますが、どちらかと言うと、全体的には雑談のような話にした方が、利用者さんの本音は聞けると思っています。
【それは講習などで学ぶのでしょうか? それとも、実務の中で発見したのでしょうか?】
どちらかと言うと、実務をしながら感じてきたことです。

 

Bさん (2)

例えば利用者から「デイサービスを利用したい」「ショートステイを利用したい」といった相談があったとき、地域にある事業所・施設の特徴をもう少しうまく伝えられるようになりたいです。各事業所・施設の特徴はやはりその現場を知らないと答えられないので、その勉強は必要だと感じています。
【そのような知識はどこで得られるのでしょうか?】
既に利用している事業所だと関わりもあるので、情報を得ることはできます。しかし、それ以外だと、営業にいらっしゃる事業所もありますが、やはりこちらからも挨拶回りや情報収集といった努力をしないといけないなと感じています。
【挨拶回りや情報収集は、実際にされているのでしょうか?】
少しはできたのですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、非常に限られています。本来的には全事業所に回ってパンフレットを頂くなどをしたかったのですけれども、新型コロナウイルスの影響でこちらが二の足を踏んでしまいました。

(※調査者注釈―Bさんは現在2年目のケアマネジャーであり、すなわち新型コロナウイルス感染拡大が始まった後にケアマネジャーになった方である。)

研究員

安齋 耀太

研究員

安齋 耀太

東京大学大学院博士課程 単位取得後満期退学。日本学術振興会 特別研究員(DC1)、Martin-Luther-Universität Halle-Wittenberg 客員研究員、神奈川工科大学および神奈川社会福祉専門学校 非常勤講師を歴任。2021年、(株)エス・エム・エスに入社。介護事業者向け事業の経営企画に携わりながら、高齢社会に関する統計調査の設計・実行・分析・発信に従事。社会調査士。

関連記事

注目タグ