2021/11/30

総合事業に関する調査

結果の概要

現在の介護予防・日常生活支援総合事業(以下、「総合事業」)は、2015年度の制度改正にて実施が決まり、2年の移行期間を経て2017年4月より全国での実施が始まったものであり、既に開始から4年が経過した。来る2024年の介護保険法改正において、要介護1、2の利用者における生活援助サービス等を総合事業に移管することが検討される可能性がある。これを受けて高齢社会ラボでは、現状の総合事業の実施状況や課題等について、ケアマネジャーを対象に調査をおこなった。
回答者の約半分が総合事業の利用において利用者が困惑する事態を経験しており、その経験の約6割はサービス事業者による利用者の受入れ拒否だった。
また、全体の8割は要介護者1、2の総合事業移管について反対の意見を示しており、その理由の大半は、利用者が十分にサービスを受けられなくなることに対する懸念だった。

 

調査概要

調査名:総合事業に関する調査(2021年10月実施)
調査対象:カイポケリサーチ
対象サービス種別:居宅介護支援
調査期間:2021年10月22日~11月15日
調査方法:インターネット調査
有効回答数:305件
うち、管理者:211 (69.2%)、主任介護支援専門員:34 (11.1%)、介護支援専門員:29 (9.5%)、その他:31 (10.2%)

 

調査詳細

1. 「過去、総合事業を利用される要支援の利用者のケースにおいて、利用者がお困りになるケースはありましたか」という設問に対する回答は、「はい」と「いいえ」でほぼ半々だった。

 

 

2. 設問1で「はい」と回答した者に対して「具体的に利用者がお困りになったケースはどのような内容になりますか」と尋ねたところ、「サービス事業者に利用者の受入れを断られたことがある」という回答が最も多く(第1位、66.7%)、それに続いて「利用者の希望より少ない回数や時間数でのサービス調整となった」(第2位、41.3%)、「地域に要支援の利用者を受入れできるサービス事業者が少ない」(第3位、21.3%)という回答が多かった。選択肢以外の回答として「月の途中で事業所を変更できなかった」旨の回答が複数見られた。

 

3. 「2024年の次期介護保険法改正において、要介護1、2の利用者における生活援助サービス等の総合事業への移管について検討される可能性があることについてご存知ですか」という設問に対して、約7割が「はい」と回答した。

 

 

4. 「要介護1、2の利用者における、訪問型・通所型サービスの総合事業移管について賛成ですか」という設問に対して、2割が「はい」、8割が「いいえ」と回答した。

 

 

5. 設問4で「いいえ」と回答した者に対して「どのような点で反対とお考えですか」と尋ねたところ、「利用者の希望より少ない回数や時間数でのサービス調整が増加する可能性があるため」という回答が最も多く(第1位、63.9%)、それに続いて「地域に要介護1、2の利用者を受入れできるサービス事業者がなくなる可能性があるため」(第2位、54.5%)、「サービス事業者に受入れを断られる可能性があるため」(第3位、52.0%)という回答が多かった。選択肢以外の回答として、「介護報酬が下がることが見込まれるため」「地域によってはサービスの幅を担保できないため」といった旨の回答が複数見られた。

 

 

6.「その他 総合事業に関してご意見があればご記入ください」という設問に対する意見は以下のとおりである。(一部、文意を損ねない程度に表現を改めている)

 

A. 総合事業全般に関する意見

 

A-a. 総合事業推進への理解
  • 「これからの高齢者増加に伴うサービス増加に歯止めをかけないといけない」という総合事業の理由については理解します。
  • 持続可能な制度のためには過剰なサービスを削っていくことは必要だと思う。
  • 国民が納得した上での保険料の効率的な使い方をしていくためには必要と思います。給付の抑制にも効果があると思います。

 

A-b. 総合事業への不満・反対意見

居宅介護支援のサービス単価に関する意見

  • 総合事業(介護予防含む)の居宅介護支援側の単価が、書類等の手間の割には異様に安いことが以前より気になっている。
  • 調整や対応の手間の発生は同様であるが、単価的に割に合わない。
  • 面倒な手続きや書類作成が多い割に、適正な給付価格になっていない。「やる気の起きる給付費であれば受けるのに……」と思ってしまう。

サービス提供事業所の単価に関する意見

  • 事業所側からすると総合事業は売上も低く事業存続が厳しくなる。
  • とにかく、事業所が受けてくれないことが困ります。結局、おカネにならないのが問題だと思います。
  • 市町村運営にすることで介護報酬が低いため受け手がいない。
  • 提供事業所が総合事業対象の方の受け入れを拒否(単位数が低いため)するところがあるため、サービスの調整がとても難しい時がある。
  • 訪問介護では特定事業所加算が算定できないため、要支援者を受け入れない事業所もあると聞きます。

サービスの不足に関する意見

  • 利用者やご家族が満足できる総合事業の選択肢が揃っていない。
  • 地域に総合事業の受け皿がなく利用できない。
  • 総合事業をしない事業者が多い。
  • 担当地域は限界集落から過疎地域・準過疎地域の地方都市で、総合事業を担う人材が確保できていない。
  • 現在、要支援の方々の支援をサービス事業者に依頼してもお断りされることが多く、大変厳しい状態です。その背景にはヘルパー不足があるようで、介護には何とかヘルパー支援出来るが予防は受けないという事業所が多い。

要支援/要介護の境界に関する意見

  • 要介護度でサービスが介護給付と総合事業に分かれていることはすなわち、厚生労働省や専門家が現状を理解していないということだと思う。
  • 総合事業は自立支援と言うが、サービス内容は要介護者と変わらない。

地域格差に関する意見

  • 市町村によって格差が生まれている総合事業の廃止を提案します。
  • 地域によっては資源に乏しく、介護予防に全く繋がらない現状です。
  • 地域の実情にあった総合事業の構築が図られていない。
  • 総合事業は自治体独自サービスにより、地域格差が大きく、利用者に納得していただくことが難しく感じる事が多々ある。
  • 市町村によって単価のばらつきが大きい。
  • 地域で違いがあるため、「知人や親戚は……」と他地域と比較される方がいらっしゃる。説明をしても納得されない場合があり、困ります。

煩雑さに関する意見

  • 自分の担当している地域では、予防支援と総合事業のケアプランの様式が違うため、予防支援から総合事業への変更やその逆の場合にケアプランを作成しなおさなければならない。また総合支援事業は半年に1回プランの更新が必要である。そのため事務作業が煩雑になっている。
  • 利用者・サービス事業所ともに、ただただ面倒くさいことに巻き込まれている感しかないです。
  • 総合事業を利用する前に市が主催するサポート会議を受けなければならず、資料の作成等に時間がとられてしまう。
  • 市町村でのルールが違うので、把握するのが大変。

利用制限に関する意見

  • 認定結果で回数等一律に制限するという考え方は受け入れられない。
  • デイサービスでは介護度により利用回数が制限され、複数の事業所の利用を希望されても利用できない。また、その代替サービスがない。
  • 利用の回数制限があると、アセスメント時に必要回数を確保できない場合には自費サービスを検討する必要があるが、その調整は困難である。

その他

  • 認知症がある方の生活を、暮らしなれた自宅で支えることができる総合事業になっていない。
  • 利用者の事を考えての事業とはとても思えない。要支援者を増やしてサービス利用を少なくしようとしているとしか思えない。
  • 「応能負担から応益負担」「利用者の利用に対する精神的負担が軽減される」「女性の社会参加が促進できる」「競争原理で導入で質の良いサービスが生き残っていく」……当初の理念はどこに行ってしまったのでしょうか。
  • 知識のない方々に任せる不安が大きい。
    わかりづらい。ケアマネでもわかりづらいのに利用者にとってはもっとわかりづらいと思います。
  • いろいろきれいごとを言っても、基本はサービス利用の抑制が主となっている。本来考えられた総合事業は、そういうものではなかったはず。
  • サービス事業所が疲弊し事業を継続出来なくなる場合も考えられる。高い理念で始まった介護保険制度自体が崩壊する可能性もあるのではないでしょうか?

 

A-c. 総合事業への要望事項
  • 日割り計算など、柔軟に対応してほしい。
  • 基準緩和型サービスの基準を見直してほしい。
  • セルフマネジメントの支援が重要だと思う。
  • 末期癌のひとを総合事業で受入れることができないように統一してほしい。
  • 利用したら利用した分だけの単位数と利用料がかかる、とした方が利用者様も納得がいくと思います。
  • 要支援もケアマネ担当にして欲しいです。
  • 福祉用具貸与を総合事業に加えるか市町村独自の横出しサービスにして欲しい。
  • 総合事業ではサービス内容で回数などの縛りが多いため、利用者の意向にそいにくい事があるため、もう少し柔軟な対応ができるようになってもらいたい。
  • 総合事業の点数について、規定回数入った場合、一回辺りの点数が最低賃金を下回る金額になる。特に日割り点数の場合は顕著。
  • 社会資源の少ない街では、サービスを利用し身体低下を維持しているが、サービスが少なくなると引きごもりが多くなる。総合事業で社会資源を増やすしくみや援助が必要である。

 

B. 要介護1、2を総合事業に移管することに対する意見

 

B-a. 要介護1、2を総合事業に移管することに対する反対意見

単価に関する意見

  • 総合事業になれば、要介護1、2のケースのプラン料金が今の1/3になり、経営が厳しくなって倒産するところも出てくる危険があります。
  • 算定の単位数が減ることでヘルパー事業所が減少するのではないか。

要介護1、2対応の負担に関する意見

  • 要介護1や2でも認知症の方も多いですし、身体介護が必要な方も多く、軽度とは思いません。要介護1や2の方の方がより手間のかかることが多いように思います。その部分を総合事業に移行した場合、生活がままならなくなる可能性が高く、反対です。
  • 要介護1、2の方は介護の手間がかかる、動作は自立だが認知症状により在宅生活困難な方が多いように思う。介護認定結果が厳しくただでさえ必要な援助が受けられず介護している家族も疲弊している中で、単純に使い方に制限のある総合事業に組み込まれることは反対です。
  • 介護度が軽いと支援が楽と考えている節がありますが、実際は自由に動き回れる軽度認知者の自由行動が一番大変だと思います。

サービス不足の懸念に関する意見

  • 現在、要支援の方々の支援をサービス事業者に依頼してもお断りされることが多く、また私が担当している利用者は要介護1、2の方が多い。このため、今後要介護1、2のサービスが総合事業になると居宅介護支援も継続出来ないのではないのではと思います。
  • サービスが縮小・制限され、利用者のニーズに沿わないことも出てくると考えられる。

その他

  • 要支援と要介護1は境界が曖昧であるにもかかわらず、要支援ではケアマネジャーがボランティアで関わっていることが多い。さらに要介護1、2が総合事業に移管されれば、ますますケアマネジャーががゴミ出し・部屋の整理整頓・通院付き添い等のケアをしなければならなくなるので困ります。
  • 必要な介護給付サービスを利用することで在宅生活を継続できている要介護1、2の独居の利用者が多くいる。このため総合事業への移行は反対したい。
  • 総合事業という名のもとの介護保険利用抑制にならないのかと考える。

 

B-b. 要介護1、2を総合事業に移管することに対する提案
  • この地域では、現状で要介護1、2を総合事業に移管する施策が行われた場合、要介護1、2の利用者は、サービスを受けられなくなってしまう可能性があります。このため移管に反対します。移管することで、地域の総合事業のサービス事業者が増えたり、独自サービスができたりするのであれば、賛成したいと思います。
  • 要介護1、2であっても認知症の利用者にとっては介護サービスが必要だと思うので、サービス事業者にもわかりやすい例外規定等の明確な線引きができると良い。
  • 支援2と要介護1のADLはあまり変わりないと感じている。なので要介護1までを総合事業に入れてはどうか?

 

研究員

安齋 耀太

研究員

安齋 耀太

東京大学大学院博士課程 単位取得後満期退学。日本学術振興会 特別研究員(DC1)、Martin-Luther-Universität Halle-Wittenberg 客員研究員、神奈川工科大学および神奈川社会福祉専門学校 非常勤講師を歴任。2021年、(株)エス・エム・エスに入社。介護事業者向け事業の経営企画に携わりながら、高齢社会に関する統計調査の設計・実行・分析・発信に従事。社会調査士。

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