2022/6/30

(ケアマネジャー対象)財務省の自己負担2割原則提言に関する意識調査

結果の概要

先日、財政制度等審議会・財政制度分科会において、介護保険サービスの利用者負担を 原則1割*から原則2割に変更する等の提言がなされました。これを受けて高齢社会ラボでは、この提言に対するケアマネジャーの意見を収集することを目的として、調査を実施することといたしました。(*現在、利用者のうち92%が1割負担の対象者です。残りの利用者は、所得に応じて2割または3割の負担となっています。)

調査の結果、9割を超える回答者が利用者負担の増加によって介護サービスの利用が減少すると考えていること、またほとんどの回答者が介護サービス利用の減少によって家族の介護負担の増加・利用者のADLの低下・利用者の認知機能の低下などを懸念していることがわかりました。

 

調査概要

  • 調査名:財務省の自己負担2割原則提言に関する意識調査(2022年5月実施)
  • 対象者:ケアマネジャー
  • 調査期間:2022年5月27日~6月25日
  • 調査方法:インターネット調査
  • 有効回答数:376件

 

調査詳細

1. 「介護保険サービスの利用者負担を原則2割にする議論があることを知っていますか?」という設問に対して、「はい」という回答が82.4%、「いいえ」という回答が17.6%だった。

 

2. 「仮に原則2割負担(現在の2倍の利用料)になった場合、利用者の納得を得ることができると思いますか?」という設問に対して、「はい」という回答が25.7%、「いいえ」という回答が74.3%だった。

 

3. 「仮に原則2割負担になった場合、利用者への説明は誰が実施するべきであると思いますか?」という設問に対して、「都道府県や市区町村」という回答が最も多く(73.8%)、これに「ケアマネジャー」(15.9%)が続いた。

 

4. 「仮に原則2割負担になった場合、利用者の介護サービス利用にどのような影響があると考えられますか?」という設問に対して、「介護サービスの利用回数が減る」という回答が最も多かった(92.0%)。対して、「介護サービスは今と変わりなく利用される」という回答は6.4%に留まった。

 

5. 「仮に原則2割負担になった場合、ケアプランの作成に影響が出ると思いますか?」という設問に対して、「はい」という回答が87.5%、「いいえ」という回答が12.5%だった。

 

6. 「仮に原則2割負担になった場合、サービス利用料を支払えずサービス利用の量を減らす利用者はいると思いますか?」という設問に対して、「数多くいると思う」という回答が52.4%、「ある程度はいると思う」という回答が43.6%だった。

 

7. 「仮に原則2割負担になった場合、値上げのためにサービスを利用したくないと感じてサービス利用の量を減らす利用者はいると思いますか?」という設問に対して、「数多くいると思う」という回答が56.4%、「ある程度はいると思う」という回答が41.2%だった。

 

8. 「原則2割負担になったことを理由に利用者または利用者の家族が介護サービスの利用を減らしたいという意向をもつようになった場合、あなたはケアマネジャーとして介護サービスの利用を減らすべきだと考えますか?」という設問に対して、「減らすべきではないが、減らさざるをえない」という回答が87.5%だった。

 

9. 「サービス利用が減った場合、ケアマネジャーの立場として心配なことをお答えください」という設問に対して、「家族の介護負担の増加」という回答が最も多く(第1位、91.2%)、それに「ADLの低下」(第2位、89.9%)、「認知機能の低下」(第3位、83.2%)が続いた。「特に心配なことはない」という回答は0.8%にとどまった。

 

10. 「社会保障費が増大していく中で自己負担金額が上がる可能性について意向をお答えください」という設問に対して、「現状を維持してほしい」という回答が67.3%、「仕方がない」という回答が30.6%だった。

 

11. 「介護サービスの利用者負担を原則1割から原則2割に変更する案について、あなたのご意見を教えてください。」という設問に対して集まった回答を抜粋して以下に表示する。

  • 1割から2割は毎日の生活には負担が大きい。
  • 1割負担でも支払いが大変でサービスを利用しない方もいるため、1割の負担は大変ありがたいと思う。1割の継続をお願いしたい。
  • 2割負担になってしまうことは仕方ないと思う一方で、利用者の経済面での不安は大きいと思うため、現行のままでお願いしたい気持ちがあります。負担額が上がるとサービスを拒否する利用者もいると思われます。その際は、地域包括支援センターの業務量(個別ケースの対応等)が増えてくるのではないかと予測します。もし2割負担になるのであれば、ケアマネジャーも他のサービス事業者も質を求められるのではないかと思うので、ケアマネジャーとしては、今まで以上にしっかりと利用者様に対応していきたいです。
  • 2割にすることで家族の介護負担が増える。これに何のメリットも感じない。
  • これから高齢者が増えて働く世代が減るので、財源確保のための方向転換は仕方ない。だが、いろんなところから集めたお金が上手く回っていなければ、身を削って生活を維持せざるを得ない利用者や家族が報われない。これ以上は無理と言うところまで徹底的に無駄を排除した後の原則2割なら仕方ないと思います。まずは、いまある財源の運営から徹底的に洗い出して欲しいです。
  • サービスを減らす利用者がいるだけでなく、負担金を払えず未収になる利用者が増える可能性があります。個人負担金はサービス事業所が回収しなければならないため、サービス事業者や私たちケアマネジャーでも今までになかった業務が増える可能性が高いです。またこういった改正の説明をいつもケアマネジャーだけに任せることをやめていただきたいと思います。
  • サービス利用が必要な人に十分利用できる制度は続けてほしい。
  • サービス利用控えに繋がり、自立支援の方向からかけ離れていく。
  • 本来なら必要のないサービスは無くなると考えられる。1割負担だから、お手伝い感覚で使用している利用者も数多くいる。本当に必要なサービスだけに淘汰されていく事を希望します。
  • 医療費や日常生活にかかる費用が上昇しているなかで、介護サービスの利用者負担まで原則2割にすることは、利用者及びその家族が経済的に困窮する原因になる。利用者負担額を2割にすることで社会保障費を補填しようとするのは、目先の効果しか生み出されない。
  • 財政状況を考えたときに「サービスを必要とする人は、それなりの負担をする必要がある」という考え方も理解できるが、そうであるならば「それなりの負担をする人は、必要とするサービスを利用できる」道を開くべきであり、そのためにも、区分支給限度額の廃止も検討してほしい。
  • 一部、収入に余裕があり影響のない人もいるかもしれないが、余裕をもって生活されている人は少ない。料金(負担額)が増えればサービスを使いたくても使えない人が出てくる可能性は高い。またサービスの使い渋りが出てくることも容易に予想できる。すると、こちらの提案したプランを受け入れてもらえず、それにより状態の改善を図れず要介護状態が悪化する。背に腹は代えられなくなり、介護保険サービスを利用する。このように。最終的には逆に介護保険財政を圧迫する事になると思われる。
  • 過剰にサービスを利用している人はいると思うので、そういった利用者の抑止力にはなると思います。ですが、何らかの理由で生活が困窮している方は、サービス利用ができなくなる可能性があるので、助成制度の上限額を変更するなどの対応策があればと思います。
  • 介護の社会化として始まった介護保険の理念はどこに行ったのでしょうか。削減のための議論ばかりで制度を良くしていこうとの議論はほとんど聞きません。
  • 介護保険は応能負担であり、2割負担が可能になるほど年金額は上昇していないし物価も下落していないはず。したがって負担額増は根拠に乏しく、代替案を提示すべきだと考える。
  • 介護保険は最初からお得な制度でありすぎた。過去には、福祉用具や住宅改修、特養入所になれば自宅で住むより安く生活できるなど、お金を垂れ流してきた。今は、居宅療養管理指導、訪問看護、住宅型有料老人ホームの訪問介護は垂れ流し。そのために必要なところにお金が行かずに介護職やケアマネは貧乏な生活を送る。一度、事業をはじめた以上、どのサービス種類も生き残っていかなければならず、部分的に、規制がかけられないのであれば、2割にするのは仕方がないのかもしれない。
  • 介護保険制度を継続していくために必要な事かもしれないが、導入に向けて十分な説明や住民への理解をおこなう準備期間が必要であると考える。
  • 極めて適当な判断だと思う。あるならあるなりに、ないならないなりにが当然であり、全ての人間が平等にできることは基本的には無いということを念頭に置く必要がある。また、利用する側である国民も、皆保険制度に麻痺してしまい、安くてより良いサービスを受けるのが当然かのような気運になっているのが私には信じられない。保険料払っているんだから使わにゃ損、みたいな思いの人も数多く見てきた。2割負担と言わず、3割や4割でも良いと思っている。
  • 原則2割ではなく、現在の様に収入に応じた費用負担を継続してもらいたい。制度の見直しをするのであれば、介護認定部分の見直しが必要では。認定にあたりかなり無駄な経費がかさんでいると常々感じている。
  • 必要のない方への無駄なサービス提供は削減でき、必要な方は必要性をよく考えて利用出来る形に近づくのではないかと感じます。ただ、質の良いサービスを提供し、加算を取っている事業者が「他より高額」と敬遠されては、質の向上を阻害してしまい本来の考え方と逆の動きが出てしまいます。
  • 年金受給額が減る中で、介護・医療の負担割合が高くなると、特に介護に関しては、利用したくとも利用できない人が増え、所得のある人だけが利用できる制度になっていく危険性があると考える。
  • 限られた財源の中から、個々の負担金が増えることは仕方ないと考えるのが妥当であるが、生活状況によって介護サービスなしでは「命」を守ることが出来ない場合もあり、介護費用が高騰することで理想と現実の相違に苦しむ方が増加すると思います。
  • 公的サービスを維持するためにはやむを得ないことだとは思いますが、本当に必要なサービスが必要な人に行き届かなくなる懸念があります。原則2割の検討とあわせて、地域包括ケアのシステム化や推進などを検討する必要があると思います。
  • 今まで安価でありすぎたと思う。だから介護職員への還元がない。
  • 資産収入が多い利用者を担当したとき、全額自費でも構わないと言われた。全額自費で支払える方と現行の1割でも生活が苦しい方がいる。資産収入が多い方は3割負担ではなく5割負担に増やす等、明らかにお金持ちの方の負担を上げる等の対応をしてほしいと思う。
  • 社会保障費の増大を抑えるためには仕方ないと思うが、国や自治体がきちんと説明を行うことが前提になると思う。ケアマネが社会保障費の増大を招いているとの記事も見かけるが、そうであれば他の国と同様にケアマネ制度自体を廃止し他の職種にもケアマネジメント業務を行わせるべきだと思う。介護支援専門員へ払うお金が削減されれば利用者負担を変更せず、他の職種にも社会保障制度の理解、自己責任の意識を上げることができる。
  • 少ない年金の中でやりくりしている高齢者が多いです。裕福な方はごく一部なので利用料が2倍になるのは反対です。
  • 少子高齢化社会で若者の負担が大きすぎるので、全国民で痛みを分かち合うしか方法がないと思う。このままだと社会保障全体が崩壊すると思います。
  • 生活保護の方から2%でも、負担いただくことを考えてはいかがでしょうか。なかには、タダだからと不要と思えるものまで要求してくる人や、生活保護だからと不要なサービスの提供をしている事業所が見られます。無料というのはありがたみがなく、利用する上での責任感も欠落していく感じがします。
  • 年金を上げる、物価など生活費用を下げる努力と実践をしてから値上げするなら理解できる。
  • 反対です。利用者様やご家族に負担がかかるのはもちろん、サービス事業所も利用が減って収入が減り、事業継続が難しくなり、サービス事業所が無くなる。すると今度は、利用者様やご家族を支える人が減り悪循環になる。
  • 本当にその支援が必要なら、2割でも3割でも利用者は支払うでしょう。現役世代や未来へ負担を多く残しながら、現在の高齢者が、さして生きる意欲も頑張ろうという意思もないのに他力本願で現状を維持する必要はないと思います。長生きがいいというのは、他人に自分の世話を委ねてもいい、という意味ではないはず。
  • 本当に必要な人にサービスが行き渡るのであれば、原則2割は致し方ないと思います。
  • 利用料が安いため必要以上に利用している方がいると思います。今後の超高齢社会には必要なことだと思います。

研究員

安齋 耀太

研究員

安齋 耀太

東京大学大学院博士課程 単位取得後満期退学。日本学術振興会 特別研究員(DC1)、Martin-Luther-Universität Halle-Wittenberg 客員研究員、神奈川工科大学および神奈川社会福祉専門学校 非常勤講師を歴任。2021年、(株)エス・エム・エスに入社。介護事業者向け事業の経営企画に携わりながら、高齢社会に関する統計調査の設計・実行・分析・発信に従事。社会調査士。

関連記事

注目タグ