結果の概要

高齢社会ラボが以前公開した「介護の質の評価に関する調査(アセスメント編)」では、ケアマネジャーの行うアセスメントにおいて、特に①生活状況、②口腔衛生、③24時間の生活リズム、④ACP、⑤インフォーマルサービスのニーズの5項目が、他の項目と比較して十分に情報収集されていないことが示されました。今回は、記述式のアンケートによって、この5項目の情報が十分に収集されていない理由を調査しました。

5項目全体を通じて、「時間が足りない」「信頼関係の構築が必要」という回答が多く見られました。

「時間が足りない」については、(1)特に初回は手続きにも時間を要するため、聞き取りの時間を十分に確保できず、限定的な情報収集になるという課題、(2)情報収集すべき項目が多く、優先度が低いと判断される項目については情報収集が不十分になりやすいという課題が背景に見られました。

また、「信頼関係の構築が必要」については、(1)口腔衛生・ACPなど、項目によっては信頼関係のできていないうちに聞きにくいものがあるという課題や、(2)項目を問わず、利用者に不審がられたり嫌な顔をされたりすることを懸念して、信頼関係のできていないうちに各項目の深堀りをすることを躊躇してしまうという課題が現れていました。

これらの課題はケアマネジャーの業務上のストレスとなりうるため、解消されることが望ましいと考えられます。課題解決の方向性としては、アセスメントの各項目について、A. 初回において収集すべき内容と徐々に収集していくべき内容を分ける、B. 統一的に収集すべき内容と利用者の属性や状態に応じて収集すべき内容を分ける、C. 優先度の高低を付けるなどのルール化及び運用上の徹底が考えられます。

くわえて、「どの程度の情報を集めれば十分だと言えるか」という点につきほとんどコンセンサスが存在していないことがわかりました。例えば口腔衛生について、「利用者の申告のみで足りるのか、直接口腔内を見る必要があるのか」などの基準が曖昧なようです。このコンセンサスを実務において形成していくことが、ケアマネジャーのアセスメントにかかる負担軽減や業務円滑化につながると考えられるでしょう。

ただし、上で示したような一連の解決策は、適切に実行しなければケアマネジャーの業務を複雑化し、かえって円滑な業務遂行を妨げてしまうことも十分に考えられます。ケアマネジャーの業務実践に即しながら適切な支援策を講じていくことが、介護の質の向上のために求められています。

 

調査概要

  • 調査名:介護の質の評価に関する追加調査1(2022年8月実施)
  • 調査対象:カイポケリサーチ
  • 対象サービス種別:居宅介護支援
  • 調査期間:2022年8月24日~9月15日
  • 調査方法:インターネット調査
  • 有効回答数:110件

 

調査詳細

1. 十分に情報を収集できていない理由として、全体的に多かった内容

1-1. 時間が足りない

  • じっくり傾聴する時間が確保できない。
  • 1回のアセスメントでは最低限の内容しか聞き取れない。
  • スピードを求められ、最低限のことしか聞き取れないケースが多い。
  • 利用者の心身の状態変化や介護者の状況などの優先順位が高いと判断した時や、聞き取りにかけられる時間が限られている場合には、十分に情報収集できないこともある。
  • 初回のアセスメントでは契約手続き等に時間を要するため、事例検討の時などに振り返ると十分に聞き取れていないことがある。
  • 施設入所された利用者とは十分な面談時間が取れない。
  • 新型コロナウイルス感染対策のため本人や家族との面談が十分にできない。

1-2. 信頼関係の構築が必要

  • 信頼関係ができてから聞くことが重要な内容もある。
  • 関係性を築きながら少しずつ聞き取っているため、その都度十分に聞き取っているとは言えない。
  • 信頼関係が構築されていない時点で、踏み込みすぎてはいけないと考えている。
  • 信頼関係の構築が進むにつれて詳しく聞き取れるようになるので、担当して間もない方については最低限の情報しか収集できない。
  • 利用者との関係性によって、聞ける人と聞けない人の間で情報量に差がある。

 

2. 「生活状況(利用者の現在の生活状況、生活歴等について記載する項目)」について十分に情報を収集できていない理由

2-1. 利用者の反応による

  • あまり細かく質問しすぎると、利用者が不安を抱いてしまう。なかには「介護サービスを利用するのに、過去のことを細かく答える必要があるのか」という質問を返す利用者もいる。
  • 利用者から話したくないと言われる事例もある。
  • 人によっては警戒されることもあり遠慮してしまう。

2-2. 特定の内容について情報を収集しにくい

  • 若いころの暮らしについての情報収集がなかなかできない。
  • 収入(年金)など聞きにくいことは聞いていない。
  • 同居家族以外の家族関係の情報収集が十分にできていない。

2-3. 利用者の認知症による

  • 認知症の利用者のなかには、自身の生活歴等が不明確な方もいる。
  • 認知症の利用者の場合、本人への聞き取りが難しい。しかし、家族に聞いてもわからないこともある。

2-4. その他

  • 個々人の抱えている問題やニーズが生活状況に起因していない場合がある。
  • 生活歴の話は長くなるので、情報収集が負担になる。
  • 入力に時間がかかる。iPadを使用して簡単に入力できるようになってほしい。

 

3. 「口腔衛生(歯・口腔内の状態や口腔衛生に関する項目)」について十分に情報を収集できていない理由

3-1. 優先度が低い

  • あまり重視していない。
  • 口腔のことは後回しになっている。
  • 口腔内の事以外に時間がかかる。
  • 大事な分野ではあるが、優先順位が低い状態になることが多い。
  • 病気のことは詳しく聞き取るが、口腔のことは後回しにしてしまう。
  • 嚥下や咀嚼に問題がなければ、優先順位の低い項目だと考えている。
  • 必要度が低いと感じている。
  • 疾患やADLに視点が向きがちで、入れ歯かどうか程度の情報収集しかしていない。

3-2. 関係性の構築が必要

  • 初対面に近い状態で口腔内をくまなく確認することに壁がある。
  • 信頼関係が構築されていない時点で、踏み込みすぎてはいけないと考えている。

3-3. 聞き取りに終始している

  • 口頭で確認しているが、口の中を確認する事はない。
  • 質問はしているが、口腔内を見て情報を収集するのは難しい。
  • はじめに義歯・残歯については把握する。検診や口腔内ケアについては、歯磨き習慣程度しか確認していない。
  • 聞き取りはしているが、口腔内の状態については確認していない。

3-4. 知識がない

  • 歯科医ではないので口腔内を直接的に点検するのは困難である。
  • 口腔衛生に関する知識が足りない。

3-5. 痛みなどの訴えがないと把握することが難しい

  • 利用者本人から「毎日、口腔ケアはできている」という話を聞くと、口腔ケアは十分にできているという判断になってしまう。利用者本人から異常があるという発言がなければ、状況を把握することは難しい。
  • 歯が痛いなどの訴えがあれば確認しているが、そうでなければ後回しになっている。
  • 相談内容が口腔衛生に起因していない。
  • 口腔衛生に問題のある人であれば、十分に情報収集できている。

3-6. その他

  • 聞きづらいと感じる部分もあり、利用者に配慮しながら聞き取るように心がけているため、十分とはいえない。

 

4. 「利用者の1日24時間の生活リズムとその中で発生する生活上の課題」について十分に情報を収集できていない理由

4-1. 生活リズムは一定ではない

  • 24時間の過ごし方は毎日変わる。
  • 利用者は全く同じ生活リズムで生活をしているわけではない。
  • 介護サービスを利用するまでは不活発な生活を送っている方が多く、起床・就寝、食事・入浴の時間について「決まっているわけではない」という回答を受けることが多い。
  • 起床・食事・就寝はある程度決まっているため、そこで発生する課題は見つけやすい。しかし、それ以外の過ごし方については、時間が決まっていないものもあり正確なものではない。
  • 規則正しい生活をしている人ばかりではないので情報収集が困難である。

4-2. 利用者本人が把握していない

  • 利用者が自身の生活リズムについて十分に言えないことがある。
  • 毎日違うことをしているので本人も把握できていない。
  • 良くわからないと言われることが多い。

4-3. その他

  • 生活リズムについては十分に情報収集できるが、その中で発生する生活上の課題についてはその後も継続して情報収集する必要があり、その場のみで十分と評価することはできない。

 

5. 「ACP(終末期における治療やケアに対する意向など)」について十分に情報を収集できていない理由

5-1. 元気な利用者への聞き取りはできない。

  • 終末期の方には聞き取りしていますが、お元気な方への質問ではないと感じています。
  • 終末期で医療や看護との連携が必要になった時にならないと意向の確認は難しい。
  • 終末期になってからでは遅いと感じるものの、元気な人に尋ねると縁起が悪いと言われてしまう。
  • 必要のない状態では確認しづらい。
  • まだまだ元気で終末期のことを考える意識をもてない家庭では、不安を煽ったり信頼関係を崩したりしてしまいそうで、十分な情報収集を躊躇してしまいます。

5-2. 利用者本人やその家族がそこまで考えられていない

  • 終末期のことについてまで考えられていない方もいる。
  • 確認はしているものの、利用者や家族は、将来の事まで考えていないことが多い。
  • うまく質問できないと、本人自身も漠然とした答え方になってしまう。

5-3. 心身の状態を見て聞き取りを行っている

  • 利用者の身体、生活、疾患などの状況に応じて、アセスメントしている。
  • 利用者の病状や心身の状態に応じて変化がある。
  • 利用者の心身の状態によって、初回に近い段階で聞き取りする事もあれば、数回のアセスメントを経て徐々に聞き取りに入ることもある。

5-4. 信頼関係が必要

  • ACPに関する聞き取りはとても大切で必要だとは思っているものの、信頼関係がある程度できてからの聞き取りになっている。
  • 信頼性と比例して詳しく聞き取れる。とてもデリケートな問題であるため、担当して間もない利用者についてははなかなか聞き取りにくい。

5-5. その他

  • ナイーブな問題であるため、徐々に聞いていく。
  • 終末に関する会話を好まない方が多い。
  • 終末期に関する意向は聞きにくい。
  • 独居の利用者以外については、家族に委ねている。
  • 利用者から終末期に関する話をしてくれる場合には意向を確認できているが、こちらから触れることはしない。

 

6. 「インフォーマルサービスのニーズ(私費・ボランティア等保険外のサービス)」について十分に情報を収集できていない理由

6-1. どんなインフォーマルサービスがあるのか十分に把握できていない

  • インフォーマルサービスに関する情報収集が足りず、偏りがある。
  • 自身の社会資源に関する情報収集が不足している。
  • 保険外サービスについての知識や資源があまりない。
  • 役所に備え付けの冊子を見たり、地域包括センターへの問い合わせを行ったりしているが、十分な知識があるかどうかわからない。

6-2. その他

  • アセスメントの項目に入れていない。
  • 介護保険サービスの話が中心になりがちである。
  • 近隣に親切な人がいたとしても、ケアプランに載せることを嫌がる人もいる。
  • 介護サービスに対してマウントを取る人もいて、連携にならない場合がある。
  • お金の問題も絡んでくるので提案しにくい。

 

研究員

安齋 耀太

研究員

安齋 耀太

東京大学大学院博士課程 単位取得後満期退学。日本学術振興会 特別研究員(DC1)、Martin-Luther-Universität Halle-Wittenberg 客員研究員、神奈川工科大学および神奈川社会福祉専門学校 非常勤講師を歴任。2021年、(株)エス・エム・エスに入社。介護事業者向け事業の経営企画に携わりながら、高齢社会に関する統計調査の設計・実行・分析・発信に従事。社会調査士。

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